

播州姫路〈白鷺城〉の天守に、魔物が棲むという。
物語の始まりで、天守夫人〈富姫〉の侍女たちは唄いつつ、五重の天守から秋草を釣る。白露を餌にして。
・・・・・そうおっしゃる、お顔が見たい、唯一目。……千歳百歳(ちとせももとせ)に唯一度、たった一度の恋だのに・・・・・
・・・・・千草八千草秋草が、それはそれは、今頃、露を沢山(たんと)欲しがるのでございますよ。刻限も七つ時、まだ夕露も夜露もないのでございますもの・・・・・
侍女の〈葛〉は奥女中の〈薄〉にそう言う。
(BOOKRIUM 本のある生活 : 白露――『天守物語』)
◆白露(はくろ)……秋の気配が感じられる頃。大気も冷えてきて、朝夕に露が見えはじめます。秋草が揺れ、虫の音も聞こえます。
◆天守物語は天守の五重から天守夫人の待女たちが 白露 を餌に秋草を釣る 場面からはじまります。その侍女五人の名は桔梗ききょう・女郎花おみなえし・萩はぎ・葛くず・撫子なでしこ、奥女中の名は薄すすき。
あらすじ
封建時代の晩秋、播州姫路の白鷺城天守閣。天守第五重の欄干から、麗しい侍女達が白露を餌に釣り糸を垂れ、秋草釣りに興じていると突然、閃光と共に美しく気高き天守夫人・富姫が現れる。姫路城主の騒々しい鷹狩を、嵐を呼んで中止させるために、越後の国の夜叉が池まで出かけていたのだ。そこへ頃合い良く、富姫の妹分で猪苗代亀の城の主・亀姫が、赤面に大山伏の扮装の朱の盤坊、舌が3尺もある舌長姥等を従えて訪問。手土産に姫路城主の兄で、亀の城の主・武田衛門之助の首を渡す。二人が手毬に興じ朱の盤坊、舌長姥は艶やかな侍女達の舞や酒でもてなされていると、鷹狩から帰ってくる行列が見える。亀姫が行列の中の城主秘蔵の鷹を誉めると、富姫はこれを土産の返礼の品に決め、瞬く間に手に入れる。鷹が天守閣へ逃げたと思った家臣は、矢や鉄砲を天守に撃ち込むが、富姫達はものともせず、亀姫の一行は帰路につく。富姫が一人、机に向かっていると、姫路城主に仕える凛々しい鷹匠・図書之助が息を殺して階段を上がってくる。彼は、鷹を逃した科で、城主から切腹の代わりに、恐ろしく誰も行こうとしない天守へ、鷹を探しに行くよう命じられた事を告げる。富姫は、図書之助の清廉さに心動かされ、二度と来てはならないと伝えて彼を生きて返す。ところが、再び天守に現れた図書之助の姿に富姫は恋心を抱く。そして、傲慢で卑怯な人間の世界を捨てて天守に留まるよう説得するが、図書之助は世のしがらみを断ち切れない。仕方なく、播磨守代々の家宝である兜を、天守に来た証拠に持たせて返すが、冤罪を着せられた図書之助は、武士に追われて再び富姫の待つ天守に逃げ込む。富姫と図書之助は、獅子頭のほろに身を隠すが、追手がこの獅子の目を刀で傷つけると、二人も失明する。討手が去った天守で、盲目となった二人は、互いに“愛の死”を覚悟する。そこへ獅子頭を彫った職人・桃六が現われ、再び獅子頭に目を入れる…。
(天守物語)耽美派の泉鏡花の戯曲を基にしたオペラ
白鷺城に棲む美しい妖怪・富姫と鷹匠・図書之助との幻想的な恋物語。
「もし、『天守』を上演してくれたら謝礼はいらぬ。こちらでお土産をおくるのだが…」と、泉鏡花自ら語っていたほどの自信作「天守物語」は、1917年に発表され、新派劇、映画、歌舞伎など様々な形で上演されてきました。オペラとしては1979年に初演され、現在では日本オペラ不朽の名作「夕鶴」等に続く力作として愛されています。「天守物語」は「夜叉が池」(1913年)と並び、大正の新時代を迎えて円熟期に入った鏡花の戯曲作品で、永井荷風や芥川龍之介ら反自然主義作家の熱烈な支持のもとに、その個性をいかんなく発揮した傑作です。播州姫路の白鷺城に棲む美しい妖怪・富姫と、「千歳百歳に唯一度、たった一度の恋だのに…」といって富姫が身を捧げた、若く凛々しい鷹匠・図書之助との恋物語。この夢幻世界がオペラになる事で、原作の持つ幻想性、官能性がひときわ輝きをもって再現されます。さらにこの作品には、幻想的で美しいばかりでなく、現実世界を見つめる鏡花の厳しい目が光っています。自然を破壊し、傲慢で疑い深く臆病な人間の一面を、天守に棲む美しい妖怪を通して描くことにより、痛烈に批判・風刺しているのです。
(天守物語)

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