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Aladdin's cock

日かげ いつか月かげとなり 木のかげ・・・山頭火       
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桐の葉に包んで置いた竜胆の花・・・

リンドウ あの日毒ある花・・・から1ヶ月、みごとに咲き揃ったコウヤボウキに夢中になっていたらアノ女が現れた。「サワギキョウの群生する姿も撮って欲しかったのに・・・人を待つことがこれほど辛いことだとは・・・コレ、あげるよ・・・この先に1本だけ咲いていたんだけれど、思わずキスしてしまったわ・・・」こんなコトを言いながら桐の葉に包んだ竜胆リンドウの花を差し出す・・・・ヒョロリと伸びた茎が女の細い指に絡み、ひ弱さを漂わせていたけれど、持ち帰りガラスの花瓶に入れてやると生き返り、きょうもひっそりと咲いている。

          「野菊の墓」
          伊藤左千夫

 後(のち)の月という時分が来ると、どうも思わずには居られない。幼い訣(わけ)とは思うが何分にも忘れることが出来ない。もはや十年余(よ)も過去った昔のことであるから、細かい事実は多くは覚えて居ないけれど、心持だけは今なお昨日の如く、その時の事を考えてると、全く当時の心持に立ち返って、涙が留めどなく湧くのである。悲しくもあり楽しくもありというような状態で、忘れようと思うこともないではないが、寧(むし)ろ繰返し繰返し考えては、夢幻的の興味を貪(むさぼ)って居る事が多い。そんな訣から一寸(ちょっと)物に書いて置こうかという気になったのである。

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村はずれの坂の降口(おりぐち)の大きな銀杏(いちょう)の樹の根で民子のくるのを待った。ここから見おろすと少しの田圃(たんぼ)がある。色よく黄ばんだ晩稲(おくて)に露をおんで、シットリと打伏した光景は、気のせいか殊に清々(すがすが)しく、胸のすくような眺めである。民子はいつの間にか来ていて、昨日の雨で洗い流した赤土の上に、二葉三葉銀杏の葉の落ちるのを拾っている。
「民さん、もうきたかい。この天気のよいことどうです。ほんとに心持のよい朝だねイ」
「ほんとに天気がよくて嬉しいわ。このまア銀杏の葉の綺麗なこと。さア出掛けましょう」
 民子の美しい手で持ってると銀杏の葉も殊に綺麗に見える。二人は坂を降りてようやく窮屈な場所から広場へ出た気になった。今日は大いそぎで棉を採り片付け、さんざん面白いことをして遊ぼうなどと相談しながら歩く。道の真中は乾いているが、両側の田についている所は、露にしとしとに濡(ぬ)れて、いろいろの草が花を開いてる。タウコギは末枯(うらが)れて、水蕎麦蓼(みずそばたで)など一番多く繁っている。都草も黄色く花が見える。野菊がよろよろと咲いている。民さんこれ野菊がと僕は吾知らず足を留めたけれど、民子は聞えないのかさっさと先へゆく。僕は一寸脇(わき)へ物を置いて、野菊の花を一握り採った。
 民子は一町ほど先へ行ってから、気がついて振り返るや否や、あれッと叫んで駆け戻ってきた。
「民さんはそんなに戻ってきないッたって僕が行くものを……」
「まア政夫さんは何をしていたの。私びッくりして……まア綺麗な野菊、政夫さん、私に半分おくれッたら、私ほんとうに野菊が好き」
「僕はもとから野菊がだい好き。民さんも野菊が好き……」
「私なんでも野菊の生れ返りよ。野菊の花を見ると身振いの出るほど好(この)もしいの。どうしてこんなかと、自分でも思う位」
「民さんはそんなに野菊が好き……道理でどうやら民さんは野菊のような人だ」
 民子は分けてやった半分の野菊を顔に押しあてて嬉しがった。二人は歩きだす。
「政夫さん……私野菊の様だってどうしてですか」
「さアどうしてということはないけど、民さんは何がなし野菊の様な風だからさ」
「それで政夫さんは野菊が好きだって……」
「僕大好きさ」
 民子はこれからはあなたが先になってと云いながら、自らは後になった。今の偶然に起った簡単な問答は、お互の胸に強く有意味に感じた。民子もそう思った事はその素振りで解る。ここまで話が迫ると、もうその先を言い出すことは出来ない。話は一寸途切れてしまった。
 何と言っても幼い両人は、今罪の神に翻弄(ほんろう)せられつつあるのであれど、野菊の様な人だと云った詞についで、その野菊を僕はだい好きだと云った時すら、僕は既に胸に動悸(どうき)を起した位で、直ぐにそれ以上を言い出すほどに、まだまだずうずうしくはなっていない。民子も同じこと、物に突きあたった様な心持で強くお互に感じた時に声はつまってしまったのだ。二人はしばらく無言で歩く。
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「そりゃ政夫さん私もそう思って居ますさ。お母さんもよくそうおっしゃいました。つまらないものですけど何とかかとか分けてやってますが、また政夫さんの様に情深くされると……」
 民子は云いさしてまた話を詰らしたが、桐の葉に包んで置いた竜胆の花を手に採って、急に話を転じた。
「こんな美しい花、いつ採ってお出でなして。りんどうはほんとによい花ですね。わたしりんどうがこんなに美しいとは知らなかったわ。わたし急にりんどうが好きになった。おオえエ花……」
 花好きな民子は例の癖で、色白の顔にその紫紺の花を押しつける。やがて何を思いだしてか、ひとりでにこにこ笑いだした。
「民さん、なんです、そんなにひとりで笑って」
「政夫さんはりんどうの様な人だ」
「どうして」
「さアどうしてということはないけど、政夫さんは何がなし竜胆の様な風だからさ」
 民子は言い終って顔をかくして笑った。
「民さんもよっぽど人が悪くなった。それでさっきの仇討(あだうち)という訣ですか。口真似なんか恐入りますナ。しかし民さんが野菊で僕が竜胆とは面白い対ですね。僕は悦(よろこ)んでりんどうになります。それで民さんがりんどうを好きになってくれればなお嬉しい」
 二人はこんならちもなき事いうて悦んでいた。秋の日足の短さ、日はようやく傾きそめる。
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(青空文庫 Aozora Bunko)







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Tokira

Author:Tokira
写真、山歩き。
マイルス・デビスやチャーリー・ミンガスもいいけれど
浅川マキのセンチメンタルジャーニーにシビれるジャズ好き。
近頃は吉田日出子の「リンゴの木の下で」を聴いては
ホロリと黄昏れている・・・
時々、照れ隠しに『淫蕩火』を名乗るエロ老人。



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