

春を華やかに彩ったサクラも、初夏ともなれば色とりどりの果実が目立ち始めた。サクラの果実といえば“さくらんぼ”・・・と言いたいところではあるけれど、染井吉野(そめいよしの)などの実は“サクラの果実”というのが正解であるらしい。赤くて甘い大粒の食用“さくらんぼ”はセイヨウミザクラ(西洋実桜)【桜桃オウトウ】 の果実で、桜の木と同じバラ科サクラ属ですが、さくらんぼは桜桃(おうとう)の木に生る果実であって、桜の実ではない。【さくらんぼ】という名称の由来は桜の実を指す「桜ん坊」からきたといわれている。また、山桜桃梅、英桃、桜桃、 山桜桃、梅桃などと書いて ユスラウメという、赤くて甘酸っぱい果実もあるからややこしい・・・子どもの頃よく食べた記憶がある。

【桜桃】 太宰治
女房の身内のひとの事に少しでも、ふれると、ひどく二人の気持がややこしくなる。
生きるという事は、たいへんな事だ。あちこちから鎖がからまっていて、少しでも動くと、血が噴(ふ)き出す。
私は黙って立って、六畳間の机の引出しから稿料のはいっている封筒を取り出し、袂(たもと)につっ込んで、それから原稿用紙と辞典を黒い風呂敷に包み、物体でないみたいに、ふわりと外に出る。
もう、仕事どころではない。自殺の事ばかり考えている。そうして、酒を飲む場所へまっすぐに行く。
「いらっしゃい」
「飲もう。きょうはまた、ばかに綺麗(きれい)な縞(しま)を、……」
「わるくないでしょう? あなたの好(す)く縞だと思っていたの」
「きょうは、夫婦喧嘩でね、陰(いん)にこもってやりきれねえんだ。飲もう。今夜は泊るぜ。だんぜん泊る」
子供より親が大事、と思いたい。子供よりも、その親のほうが弱いのだ。
桜桃が出た。
私の家では、子供たちに、ぜいたくなものを食べさせない。子供たちは、桜桃など、見た事も無いかもしれない。食べさせたら、よろこぶだろう。父が持って帰ったら、よろこぶだろう。蔓(つる)を糸でつないで、首にかけると、桜桃は、珊瑚(さんご)の首飾りのように見えるだろう。
しかし、父は、大皿に盛られた桜桃を、極めてまずそうに食べては種を吐(は)き、食べては種を吐き、食べては種を吐き、そうして心の中で虚勢みたいに呟く言葉は、子供よりも親が大事。
(太宰治「桜桃」より)
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