不潔な虫の巧みな仕組み
次はセンチニクバエの話。センチは〈せっちん〉の意味だそうだから、この虫の好みがわかろうというものである。
だが、「不潔」などと軽蔑してはいけない。この虫の体を傷つけると、体液中にある種のたんぱく質ができる。東京大学の名取俊二教授らの研究によって、 この物質(ザルコトキシンと命名)に強力な抗菌作用があることがわかってきた。細菌の細胞膜に穴をあけ、殺してしまうのだそうだ。 ハエだって(ばい菌うようよ)の世界で生きるには、それなりの備えが必要だ。侵入した細菌は「抗菌性たんぱく質」で撃退するのである。
話は少し難しくなるが、もともと生物体は細菌などが侵入してきた時、これから身を守る「生体防御機構」をもっている。人間など脊椎動物では、 細菌(抗原)が侵入すると抗体が攻撃する、いわゆる「抗原抗体反応」の仕組みがある。
ところが、昆虫の生体防御の仕組みは、これと異なり、細菌が侵入すると抗菌性たんぱく質をつくるのである。しかも彼らは複数の抗菌性たんぱく質の生成能をもっていて、 相手によってこれを調合し、細菌に立ち向かっているらしい。
抗菌性たんぱく質は、ほんの20年ほど前に発見され、現在までに世界で50種以上が確認されている。いずれも短時間に生成され、各種細菌に非特異的に働き、 効果の幅が広く、一過性で2~3日で消滅してしまう。短命な昆虫にとっては、なんにでもすぐ効くこの方法の方が好都合ということだろう。 泥んこ遊びの好きなわんぱく坊主をもつ家庭の「常備薬」のようなものだ。
◆不潔な虫の巧みな仕組み(農業技術よもやま話 (社)農林水産技術情報協会)
↓オモロナイ!写真がイマイチ!・・click!